春日井市が実証!生成AI活用で市民サービスが変わる|自動応答システムの可能性

春日井市が実証!生成AI活用で市民サービスが変わる|自動応答システムの可能性
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愛知県春日井市では、市民からの問い合わせに24時間対応できる自動応答サービスの改善に向けて、生成AIを活用した実証実験を実施しました。従来のFAQベースのシステムでは、職員の更新作業負担が大きく、対応分野も限定的でした。この課題を解決するため、市は2024年9月に1か月間の公開実証実験を行い、生成AIによる自然な対話と正確な情報提供の可能性を検証しました。

実証実験の結果、生成AIは約90%の高い正答率を達成し、市民の自然な言葉づかいを理解して適切に回答できることが確認されました。市ホームページの情報を直接参照することで、FAQデータの作成が不要となり、職員の負担軽減につながることも明らかになりました。春日井市はこの成果を踏まえ、音声入力対応などさらに幅広い活用方法を検討していく方針です。

目次

自治体が直面する市民サービスの課題

春日井市は平成30年度から自動応答サービス「教えて!道風くん」を運用してきましたが、従来のシステムには大きな課題がありました。職員は独自のExcel形式でFAQデータを作成し、質問と回答の両方を個別に管理する必要があり、ホームページの更新とは別に常にメンテナンスが必要でした。この管理負担により、情報更新が遅れたり、対応分野の拡大が進まないという問題が発生していました。

市民からは「対応分野が限られている」「答えてくれない」といった不満の声も寄せられていました。一問一答形式の従来システムでは、あらかじめ想定した質問にしか対応できず、市民の多様な表現や問い合わせには柔軟に対応できませんでした。このような状況を改善するため、春日井市は生成AI技術の活用に着目し、実証実験の実施を決定しました。

生成AI活用実証実験の全容

実証実験は2024年9月2日から9月30日までの1か月間、インターネット上で公開形式で実施されました。対象分野は現行ツールで主に対応している「子育て・教育」に限定し、市ホームページの該当ページと既存のFAQデータを生成AIに学習させました。実験には猫型AI「ハルくん」という親しみやすいキャラクターを採用し、市民が気軽に利用できる環境を整えました。

従来の自動応答サービスとの最大の違いは、生成AIが質問の意図を理解し、その場で回答を生成する点です。決められた質問に決まった答えを返すのではなく、市民の自然な言葉づかいを理解し、市ホームページの内容を参照しながら、柔軟で人間らしい応答を生成します。これにより、より幅広い質問に対応でき、市民満足度の向上が期待されました。

実証実験では、利用者の使い勝手や回答の適切さを検証するため、利用後のアンケート調査も実施しました。総会話数は約2,700件に達し、91件のアンケート回答を得ることができました。主な利用者は20~40代の子育て世帯で、保育園、学童保育、遊べる施設に関する質問が多く寄せられました。

実証実験が示した成果と可能性

実証実験の結果、生成AIの有用性が明確に示されました。まず、自然な言葉づかいでの対話において、「保育料はいくらになるの?」という質問に対して、年齢別の料金体系を分かりやすく説明し、詳細情報へのリンクも提供するなど、実用的な回答が生成されました。「2人目の子供が生まれました」という報告に対しては、お祝いの言葉とともに必要な手続きを案内するなど、人間らしい配慮も見られました。

正確性の検証では、全質疑応答内容を分析した結果、約90%が市の想定通りの適切な回答でした。特筆すべきは、著しい誤回答やハルシネーション(AI特有の誤った情報生成)が一切確認されなかったことです。回答できなかった約6%は主に同義語の判定ができなかったケースで、技術的な改善により解決可能な範囲でした。

利用者アンケートでは、約70%が「回答を得られた」と評価し、半数が「よかった」と回答しました。「悪かった」という評価は1割未満にとどまり、生成AIによる市民サービスの実用性が確認されました。さらに、ごみ、防災、健康・福祉など、他分野への展開を望む声も多く寄せられ、今後の可能性も示されました。

技術パートナーが実現した迅速な導入

この実証実験を技術面で支えたのが、会話型AI構築プラットフォーム「miibo」とシステム導入を担当したアースアイズ株式会社です。miiboはノーコードで実用的な会話型AIを構築できるプラットフォームで、春日井市の要件に合わせた迅速なシステム構築を可能にしました。プログラミング知識がなくても直感的な操作でAIの設定や調整ができるため、自治体職員でも運用管理が可能です。

アースアイズは10年にわたるAIサービス提供の経験を活かし、システム導入から運用サポートまで一貫した支援を提供しました。特に、市ホームページのデータを効率的に学習させる手法や、市民にとって使いやすいインターフェースの設計など、実証実験の成功に重要な役割を果たしました。両社の技術とノウハウにより、わずか1か月という短期間での実証実験実施が実現しました。

miiboの特徴である「つくって・ためす超アジャイル開発」により、実装から効果検証、改善までのPDCAサイクルを高速で回すことができました。これは自治体のような公的機関において、限られた予算と期間で新技術の検証を行う際に特に有効であることが証明されました。

生成AI活用の未来と春日井市の方針

春日井市は実証実験の成果を踏まえながらも、慎重な姿勢を示しています。民間事業者が提供する生成AIサービスが一般化する中で、公設の自動応答システムの必要性を再考し、導入ありきではない検討を進める方針です。音声入力による自動応答など、文字入力以外の新たな活用方法も視野に入れ、より幅広い市民ニーズに対応できるサービスの可能性を探っています。

検討が必要な事項として、回答精度向上のためのホームページ情報の整理・改善や、生成AI利用時の注意点を市民に適切に伝える方法などが挙げられています。生成AIは発展途上の技術であり、完全な正確性を保証できないことを市民に理解してもらいながら、便利なツールとして活用してもらうためのバランスが重要となります。

今回の実証実験は、自治体における生成AI活用の先進事例として、他の自治体にも参考となる貴重な知見を提供しました。技術の進化とともに、市民サービスのあり方も変化していく中で、春日井市の取り組みは自治体DXの新たな可能性を示すものとなりました。

よくあるご質問

Q

生成AIによる回答は本当に正確なのですか?

実証実験では約90%の正答率を達成し、著しい誤回答やハルシネーションは一切確認されませんでした。生成AIは市ホームページの内容を直接参照して回答を生成するため、情報源が明確で信頼性が高いという特徴があります。ただし、約6%は同義語の判定ができないなどの理由で適切に回答できないケースもあり、技術的な改善の余地は残されています。

Q

従来の自動応答システムと何が違うのですか?

従来のシステムは事前に用意したFAQデータに基づく一問一答形式でしたが、生成AIは質問の意図を理解してその場で回答を生成します。市民の自然な言葉づかいを理解し、「2人目の子供が生まれました」といった報告に対してもお祝いの言葉とともに必要な手続きを案内するなど、人間らしい対応が可能です。また、FAQデータの作成・更新が不要になるため、職員の負担も大幅に軽減されます。

Q

プライバシーやセキュリティは大丈夫ですか?

実証実験では個人情報の入力を求めない仕組みとし、一般的な問い合わせへの回答に限定していました。使用したmiiboプラットフォームは高度なデータ保護機能を搭載しており、セキュリティ面での配慮がなされています。今後本格導入する場合も、個人情報を扱わない範囲での活用を基本とし、市民の安全性を最優先に検討を進める方針です。

Q

なぜ「子育て・教育」分野に限定したのですか?

現行の自動応答サービスで最も利用が多く、市民ニーズが高い分野であることが主な理由です。また、限定的な分野で実証することで、生成AIの性能や課題を詳細に検証することができました。アンケートでは「ごみ」「防災・安全」「健康・福祉」など他分野への展開を望む声も多く、実証実験の成果を踏まえて対応分野の拡大も検討されています。

Q

実証実験にかかった費用はどれくらいですか?

具体的な費用は公表されていませんが、miiboのノーコード開発により短期間・低コストでの実施が可能となりました。従来のシステム開発と比較して、プログラミング不要で直感的な操作により構築できるため、開発費用を大幅に抑えることができます。また、FAQデータの作成・更新にかかる人件費の削減効果も期待でき、長期的にはコスト削減につながると考えられています。

Q

他の自治体でも導入できますか?

技術的には可能で、miiboとアースアイズは春日井市での実績を踏まえて他自治体への展開も計画しています。ノーコードで構築できるため、IT専門職員がいない自治体でも導入しやすいという利点があります。ただし、各自治体のホームページ構造や市民ニーズに合わせたカスタマイズは必要で、実証実験を通じた効果検証も推奨されます。

Q

音声での問い合わせにも対応できますか?

現在の実証実験は文字入力のみでしたが、春日井市は音声入力による自動応答も将来的な活用方法として検討しています。技術的には音声認識と組み合わせることで実現可能で、高齢者や文字入力が困難な方にも利用しやすいサービスとなることが期待されます。ただし、実装には追加の技術検証と開発が必要となります。

Q

生成AIが間違った回答をした場合の対応は?

実証実験では利用者に対して、生成AIは発展途上の技術であり誤った応答の可能性があることを事前に周知していました。重要な手続きや正確性が求められる情報については、必ず市の公式ホームページや窓口で確認するよう案内しています。また、回答には情報源となるホームページへのリンクを含めることで、利用者が詳細を確認できる仕組みとしています。

Q

24時間365日利用できるのですか?

実証実験期間中は24時間利用可能でした。生成AIシステムの大きな利点の一つが、時間や曜日を問わず市民からの問い合わせに対応できることです。深夜や休日でも保育園の申し込み方法や子育て支援制度について調べられるため、働く保護者にとって特に便利なサービスとなります。本格導入時も24時間365日の稼働を基本とする予定です。

Q

今後の本格導入はいつ頃になりますか?

春日井市は実証実験の成果を踏まえつつ、導入ありきではない慎重な検討を進めています。民間の生成AIサービスが普及する中で、公設システムの必要性を再考し、市民にとって真に価値のあるサービスのあり方を模索しています。具体的な導入時期は未定ですが、ホームページ情報の整理・改善や市民への適切な周知方法の確立など、必要な準備を着実に進めていく方針です。